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INTERVIEW

2016/11/18

『その音楽を貫く決意と芯の強さ』黒木渚 インタヴュー

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2012年、1stシングル『あたしの心臓あげる』を発表。まるで小説のような世界観の歌詞と、舞台を思わせるライヴパフォーマンスが話題を呼び、着実にファンを獲得。昨年7月には恵比寿LIQUID ROOMを含む全国5大都市でフリーワンマンツアーを開催し、約1万人の応募が殺到。そんな押しも押されもせぬ彼女に、最新作『自由律』についての話はもちろん、ライヴに対する熱い思いやこだわりから、アルバムに付属されている長編小説「壁の鹿」についての話まで幅広く語ってもらった。

「律」があってこその「自由」

——10月に最新作『自由律』が発売されました。前作の『標本箱』は一人になってから初めてのアルバムで、“女”がテーマになっていたと思います。今作のテーマは何ですか?

一言で言うとすれば“脱皮”ですね。前作は、黒木渚はこういう作品を作る人なんだっていうことを知ってもらえるようなコンセプトアルバムを作ろうと思って。作家的なポジションで“11人の女”を書くっていうことをやったんです。それから今作までの間の1年半、音楽活動をコツコツやっていて、自分と向かい合って気づいた新たな発見がすごくたくさんあったんですよ。黒木渚はこうしてるとカッコいいとか、こうあるべきだとか、そういうこの1年半で積み上げてきた黒木渚の像みたいなものが見えてきたので、今度はそれをぶっ壊す時期が来たなと感じたんですよね。なので、“脱皮”という言葉がぴったりだと思います。今まで自分が信じてきた美学みたいなものを打ち崩して、いったん常識の外に出るという俯瞰の視点を持つために作ったアルバムという位置づけになります。

——今回はどうして『自由律』というタイトルにしようと思われたのですか?

さっき言った、脱皮の手順を踏むための1番ふさわしい日本語がこの俳句用語だと思って。5・7・5で作るルールを無視するということと、私が目標としてる次元にとても近いものを感じたんです。自由律は、5・7・5っていう律という名の型がまず初めにあって、そこから初めて抜け出して自由律になるので、ただでたらめにやるのとはちょっと違うなと思っていて。私もただ闇雲に音楽を作るのではなく、1度楽曲制作のパターンという型を学んだ上で解放して、次のステージに行くべきだなと思っていたので。その気持ちにあてはまる言葉が自由律という言葉だったので、このタイトルにしました。

——では、前作の『標本箱』の段階では、まだ型にはまってたということですか?

あのときはソロとして黒木渚がスタートしたばっかりで、まず型を作らなくちゃいけない時期だったと思うんですよ。だから、黒木渚の軸となるものをぶれないように打ち込む作業をしていたので、当時はあの作品でよかったと思ってます。

——前作までのアルバムとの違いや、今作でとくに意識したポイントなどはありますか?

1番大きく違うのは、サウンド面ですね。自由律の「自由」の部分を遺憾なく発揮できたので。前作は、作家的な目線で“11人の女”をテーマに11曲収録していて、言葉が支配する割合がとても大きな作品だったんですが、今作までの間に小説を別で書いていて、言葉をそっちでたくさん使っていたので、今作はサウンド面にもっと力を入れようと思って。前作のアルバムから1年半経って、それまでもずっと音楽やってきたくせに、音楽の楽しさがやっとわかってきたような期間だったので。だからもっと音で遊ぼうと思ったんです。あと、自由律で解き放たれるとは言いつつ、絶対にぶれちゃいけない軸の部分があって。それが歌詞とメロディだなっていうことに気づいたんです。今作までの間に出したシングルでもそうですけど、歌詞とメロディにすごく私らしさがあって。私という軸がしっかりしてきたので、アレンジやサウンドはどこまで挑戦しても大丈夫だと思ったんです。

——なるほど。

例えば、今流行りのEDMのようなサウンドを取り入れたり、新しいミュージシャンに協力してもらったり。使ったことのないスチールドラムや、全然知らない異国の楽器を使うなどして、サウンド面ではかなり冒険しましたね。

——たしかに、「大予言」のイントロを聴いたときにすごくチャイナっぽさを感じました。さらに「テンプレート」は、西部劇のサントラのような感じで。これらも“自由”を意識してのことでしょうか?

そうですね。ルールがないってことに時々苦しんだりもするんですけど、あくまでもルールがないことを前提に作ろうと。

——はい。

黒木渚は王道のバンドサウンドでずっとやってるみたいなイメージが自分でもあって、それがかっこいいと思ってるし、生楽器を使うのも素敵だと思ってるんですけど、その王道の構成からあえて外れて、小さくお客さんを裏切ってサプライズをしてみるっていうのも絶対必要だなと思って。

——なるほど。先ほど自由だからこそ苦しいときがあると言われましたが、それは黒木さんがロープに縛られているジャケット写真にも関連してくると思います。

あのジャケットって緩く縛られてるんですよ。

——そうですね。

ぎちぎちに縛られて、黒ひげ危機一髪みたいにはなってなくて(笑)。見方によっては今から解き放たれるのか、それとも今から縛られるのかわかんないっていうジャストなポイントを写真に収めたかったんですよ。それなのに、『自由律』というタイトルがあそこに印字されてるのはすごい違和感があって、そのベストな違和感みたいなのがすごく渋いなと思って。とくにジャケットを見てくれる人って、しっかりCDショップに出向いて買いに行って聴いてくれるような、音楽を大切にしてくれている人たちじゃないですか。その人たちにも、パッケージングされた”黒木渚の一貫した世界”というのをきちんと届けたかったんです。

残酷だらけの世界で見つけた生き方

——「大予言」の中の、“魂以外はくれてやる”という歌詞を聴いて、魂だけは絶対に渡さないというすごく強い意志を感じました。黒木さんはどのような魂を持っていると思いますか?

さっきも言ったように、やっぱり歌詞とメロディですね。そこが私の真髄だと思ってて。黒木渚の音楽に魂があるとすればそこかなと思ってます。私は歌いたいことがないと曲を作らないタイプなんで、先にテーマだけをストックしておくんですね。先に歌いたいものがあって、後からサウンドが出てきたりとか、メロディが降ってきたりっていう感じなんで。だからやましいことが歌えないタイプというか、本当に思ったり感じたりしないと曲が作れないんです。そこだけ守れていれば、あとは全然大丈夫という感じなので。

——では、逆にどのようなときに「これは歌にしたい!」って思うのですか?

かなりささやかなことがきっかけになることがよくあって。ずっと頬袋に餌を貯めたまま、きっかけを待ってるみたいな感じで生活してるんですよ(笑)。いつもノートを持っていて、そこにいい予感がする言葉を全部ストックしているんです。家にいても電車の中にいても、なんか面白いことになりそうな言葉をまずそこに全部書き込んでいて。それを常に持ち歩いていると、例えば「あの窓、素敵だな」って思ったりして歩いていると、ストックしておいた語彙とその窓が綺麗に繋がって、物語が見える瞬間があるんです。そういうときに、作詞したいなと思いますね。

——同じく「大予言」の歌詞に、“残酷だらけの世界”という部分があります。普段、黒木さんが残酷だなぁと思う瞬間はありますか?

たくさんありますよ。東京なんて残酷の集まりみたいな感じじゃないですか。ピカピカのアルマーニのスーツを着て歩いてる人の足元でおじいちゃんが寝てるとか普通にあるし。まぁ、東京だけに限ったことではないですけど。何か「ここ本当に日本?!」みたいな、残酷なことが起きてますよね。あとは、交通事故とか病気とか、そんなに大きなニュースにならなくても残酷なことはありますよね。目を凝らして、その残酷という視点で見ればキリがないと思います。

——それでも、そのあとの歌詞で“ぶん殴っていけ”とありますよね。これはどんなに残酷なことがあっても、絶対生きていかなければいけないということですか?

そうですね。まぁ、私自体がヘタレだから死ぬ勇気がないっていうのもあるんですけど(笑)。残酷だ!と絶望したときに死ぬ勇気があれば話は別なんですが、死ぬ勇気がなくて、それでも生きていくしかないというときに、ずっと「怖い!」とか「やだ!」って思ってるのが鬱陶しくなってきたんですよ。つまらないとか、周りの環境のせいだとか言い続けているのは、逆に疲れてきたなと思って。そこでパチンとネガティヴとポジティヴが反転したんです。別に武闘派じゃないですけど、玉砕覚悟で1発ぶん殴った方がスカッとするんじゃないかと思ったんですね。案外1回腹くくってしまえば楽チンなんですよ。

——以前の作品に収録されている「はさみ」や、「骨」などの比喩も、先ほど仰ったストックから出して広げていくような作り方なのでしょうか?

そうですね。私は比喩とかメタファーを結構使うタイプだと思うんです。でも、そういうものってきちんと歌いたいことの本質が掴めていれば出てきやすいんですよ。例えば、私にとって「歌うことって何だろう?」って考えたときに、それは“私を燃やして残るもの”だなぁと思って。そして、それを喩えるなら「骨」みたいだなぁという感じで、比喩は後からついてくる感じですね。

——歌詞を作詞する際に言葉選びなどは、どのような点を気をつけていますか?

“普遍的だけどたった1つ”というのはすごい意識して作りました。みんなにわかる言葉で誰にも歌えないことを歌いたくて。

——それを探すのは難しいですよね?

確かにね(笑)。だけど、独特の配合具合があって。当たり前ですけど、ありきたりな言葉なんてもうとっくに使い古してるに決まってるじゃないですか。その中にどれくらいの割合で、私なりの違和感を入れるかというのに挑戦していて。ベタな部分何%、斬新な違和感何%っていう配合具合があって。気をつけてるのはそれくらいですかね。そのベタな部分の感性は、意外とみんなが共通して持ってるんですよ。やっぱり、誰がどう聴いたっていいなみたいな。みんなが宮部みゆきの本を読んでやっぱ面白いなって思うと同じだと思いますね。

——なるほど。今の宮部みゆきさんのお話もあったように、文学にも造詣が深い黒木さんですが、その独特な楽曲の世界観はどのような文学作品からインスパイアされているのでしょうか?

これはですね、けっこうスタンダードな本も読むし、突拍子もないやつも読むんですけど、スタンダードで言えば、村上春樹さん。そこが本好きになったきっかけかなと思っていて。活字に救われたみたいな経験は村上春樹さんの『ノルウェイの森』で体験して。そこから村上龍さんも好きだし、最近は町田康さんも読んでます。あとは本屋に行ってジャケ買いです。だからタイトルも作家もわからないような本が山のようにあって。ただ装丁の色が好きで買ったのもあるし。色々読み漁ってますね。

——生命力を保つ原動力などは文学から来ていたりもするのですか?

そうですね。面白い本読んだら、面白いことやりたいって思うし、ライヴみたらライヴやりたいって思うし。あと、本からヒントを得てワンマンの演出を思いついたりとかはあるんで。やってみたいと思って、実現するまでは頑張らなくちゃというのはありますね。

——その他には、楽曲制作するにあたってモチベーションを保つものはありますか?

1番はライヴですね。制作の合間にライヴがあるんですけど、そのときはすごく開放感があるんですよ。創作活動で煮詰まったぶんが30分のライヴで解消されるので。それで生きながらえてるところもありますね。

——これはライヴでやったら楽しいだろうな、とか思いながら楽曲を作ることもありますか?

ありますね。「アーモンド」とかは、できた日に、誰かに向けて歌っているという図が映像として出てきたんですよ。

——それは特定の誰かではなく?

そうです。お客さんの映像です。お客さんの前で自分がどう動いているかとかという感じですね。

ライヴに対する真摯な姿勢

——今年7月に行われた恵比寿で行われたフリーライブでも、朗読してるコーナーがありましたが、そういったのも普段から本を読んでいる中での構想から生まれたのですか?

そうですね。言葉が好きだというのと、全体にストーリーをもたせるのが好きだというのもあるし。あと、朗読という方法がすごく自分に合っている表現スタイルだなというのもありますね。

——以前に何度かライヴを見させていただきましたが、ステージ上でのお姿は力強くて、たくさんの生命力を感じました。ライヴを行うにあたって1番意識していることは何ですか?

やっぱり、やましいことは何1つ持ち込まないというのが一つ。だからMCとかでも絶対に嘘をつかないことですね。やっぱりやましいことがあると、一瞬でバレると思うんです。だってステージの上で一人で立ってるんですよ(笑)。たくさんの人が私を見てる中で嘘をついてバレないはずがないので。

——やましいことというのは、自分を着飾ったりしたMCなどですか?

はい。別に素敵だと思ってないことをさも素敵かのように伝えるとかね。だから本当に歌いたいことを歌うし、本当に言いたいことを言います。お客さんからすると、「どうしたんだ? 今日の殺気は?」みたいな日も絶対あると思う。あと、私にとってステージに立つというのは、まともに生きていくための装置でもあって。私、普段、全然精神的なブレがないんですよ。

——そうなんですか。

そう。普通、女の人って情緒不安定だったり、浮き沈みが激しかったりするじゃないですか(笑)。そういうのが私には全くなくて。自分でも心配になるときがあるんですけど。でも、ステージの上では恥ずかしげもなく揺れたり乱れたり、人間くさくいられる。それがないと、どっちも平坦になったときにとんでもなくやばいことがある日急に起こりそうな感じがするじゃないですか(笑)。だからライヴをやることで私はまともでいられるんだと思います。

——音楽を表現するにあたって、やましいことは絶対にしないという強い思いはどこからくるものなんですか?

それは、公務員時代があったのが大きいですね。1年間公務員として働いていて昨年と同じことを同じようにやるという連続の中で働いていたので、その反動で創作的なことがすごく楽しいというのもあったし、公務員をやめて音楽の世界に飛び込むんだったら、自分が納得のいくようにやらないと気が済まないと思って。不満を持つのも音楽の道を選んで最高だと思うのも自分次第なので。その中にやりたくないことを、さも素敵なことのようにやるというのは、自分にとってすごく嫌なことで。

——それは人に対しても嘘はつかないというのもそうですけど、自分が好きなものに対しても嘘をつきたくないということですか?

そうですね。

アーティストとしての覚悟

——先ほども仰っていたように、黒木さんは市役所で公務員として働いたあとにアーティストへ転向されました。これにはすごい決意が必要だったと思います。そこまで黒木さんを突き動かしたきっかけは何だったのでしょうか?

そうですね。そのときはまだ九州にいて、バンドと公務員を掛け持ちしていました。でも、どちらも本気でやろうと思うと肉体的にすごくしんどかったんですよ。それで、このまま二足のわらじを履いて中途半端になってしまうのは、どちらに対しても失礼だと思ったんです。

——はい。

それから、どちらを選ぶか決めるきっかけとして1番大きかったのは、その時期にキャパ100人くらいのライヴハウスでワンマンライヴをやったことですね。人生で初めてワンマンをやったときに、すごく気持ちが高ぶったんです。そこでお客さん全員と、「武道館行こうよ!」「私が連れていくわ!」って約束したんです。九州の人からすると、音楽家になって東京に出て武道館に行くというのは夢を体現している姿なんですね。私もそのイメージの中で生きてきて。それで、もしこのお客さんたちと武道館でまた会えたら、さぞかし気持ちいいだろうなぁと思って。そして約束したからには、それを達成するという目標ができて。あと、どちらかを一生の仕事として選択したときに、どっちの姿で死にたいかというのはありました。それで私は音楽家として死にたかった。

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小説『壁の鹿』について

——ところで、『自由律』の初回限定盤Aに付属されている小説「壁の鹿」を読ませていただきました。

ありがとうございます。長い話を(笑)。

——すごく面白くて、どっぷりはまりながら読んだのですが、読後感を表現するのは難しい、何とも言えない気分になりました……。このような小説を書こうという構想はいつくらいからあったのですか?

これは1月に『虎視眈々と淡々と』というシングルを出した際、「2015年は血を吐くぐらいやらないとな」という、とにかく働きたい!という思いがあって。それに今までファンの人から「小説読んでみたい!」という声も頂いてて。私はすごく本が好きなので、書いてみたいという思いはあったんですけど、忙しかったので踏み込まなかったんですね。でも2015年は私にとって一大勝負の年だと思ってたので、次のシングルにあわせて書こうと思ったんです。

——歌詞を書くのと小説を書くのでは、字数の制限や表現方法が異なると思うんですが、そのあたりの違いは感じましたか?

私は言葉を表現するのは得意だと思っていたんですけど、やっぱりまだコントロールできない感じがしました。私は作詞と小説を執筆することはベクトルが全く違うところにあると思っていて。作詞するときは、説明過多にならないように、余計なものを削っていって引き算のように作るんです。一方小説は、歌詞と同じ字数だったら少なすぎるじゃないですか。

——そうですね。

それを一つの長いストーリーにするときに、足し算しなくちゃいけなくて。音楽より慣れてないぶん、ディテールが出てくる時間とかに結構ムラがあって苦しんだところはありました。

——作中に出てくるタイラという女性は、黒木さん自身を反映した人物なのですか?

そうですね。作中の全6話のうち、5人の主人公がいて、タイラの話が2つあるんですけど。やっぱり一番近いのはタイラだと思います。

——それぞれの主人公にご自身の要素を含まれたということもありますか?

もちろん架空の人物なんですけど、モデルめいたものはいますね。でもやっぱりタイラが一番私に近くて。女子高にいた自分の経験や自分の中のデータベースから引っ張ってタイラを書いている場面もあります。ただ自分のことは書きにくかったですね。

——作中に出てくるタイラという女性は、黒木さん自身を反映した人物なのですか?

そうですね。作中の全6話のうち、5人の主人公がいて、タイラの話が2つあるんですけど。やっぱり一番近いのはタイラだと思います。ただ自分に近い登場人物のことは書きにくかったですね。全くの妄想とか空想の方が、好き勝手に書けるので。

——それは、「自分感」をどれだけ出すかというところのバランスですか?

自分自身の独白って、客観視できないので難しいじゃないですか。自分の辿ってきた過去とかが、人様に読んでもらったときにどうなるのかが全く想像つかなかったですね。

——小説中に出てくる、「剥製の鹿」は身近にあったりお持ちだったりするのですか?

剥製の鹿は持ってないんですけど、骸骨の鹿は2頭持っていて。この小説書いてから、私は鹿が大好きだと思われて(笑)。誕生日に人から貰ったりしたのもあって。小説書く前は、アパレルショップとかライヴハウスとかに飾ってあるのよくあるじゃないですか。

——そうですね。

たまたま、剥製の鹿に会うことが多くて。それが、いかにも喋りそうな感じだったんですね。「これ喋ってきたら気持ち悪いな」みたいなことは妄想してたんです。それで、本格的に小説を書くとなったときに、きちんと剥製を作ってる人に会いに行こうと思って。

——そうなんですか!

日光に剥製を作ってるおじさんがいるということで、会いに行って。それがすごい印象だなというのがあって。

——人間も剥製にしそうだなみたいな?

そうそう(笑)。あと、昔ってどこでも狸の剥製が飾ってあったんですよ。そういうのが流行した時代があって。剥製師の人たちって、その時代の職人さんなんですね。その人たちは死んだ動物の遺体を用いて伝統工芸品を作ってお金を稼ぐという、死体からお金を発生させるという生活で。死体ををくり抜いて、まるで生きているときのように形を作って出荷していて。そういうタブーと紙一重のところで生きている人って、割とさばけてるというか、私たちと生きる死ぬの感覚が違うんですよね。

——前作のアルバム『標本箱』に収録されている「ウェット」も、すごく暗い歌詞で「死」を大きく扱っていて。それもすごい際どいラインだと思うのですが……。

あの曲は、10代のときに作っていて。『標本箱』の中では比較的古い曲なんですよ。10代のときの私は、フィクションを作るという、作家的な視点が芽生え始めてる頃で。だから手首を切ったことも、彼氏も刺したこともないし(笑)。また、この曲はお化けが主人公で、そのお化けの一人語りというストーリーで作ったんです。そういう作家的な視点を持ち始めた頃の最初の歌だから、まだ初期衝動で作っていて、かなり荒いんですよ。その危ういものを表現することに、恐れが全くない状況で作っているから尖っていて直接的な表現になったんでしょうね。

——続いてデビュー作までさかのぼりますが、1stアルバム『黒キ渚』に収録されている、「赤紙」が個人的に大好きで。歌詞がまるで黒木さんが戦時中に生きていたのではないかというくらいリアルで驚いたのですが、これは実際に戦時中に生きていた人などからリサーチやインタビューはされたのですか?

いや、おばあちゃんが歌劇団にいたということくらいですね。あとは今まで読んできた本とかから得た知識とか、妄想力とかで組み立ててる感じですかね。

——初めてのアルバムで戦争をテーマに扱うことは、すごく勇気のいることだと思うんですけど、どうしてそれをテーマにしようと思われたのですか?

実は、あの曲は父親との確執を歌っている曲で。それをなぜ時代背景をあえてずらしているのかというと、さっきの「タイラ」と同じで、自分に近い主人公を歌ってるから、まだ照れてたんだと思いますよ(笑)。素直にこれが私の歌だって思われたくなかったというか。すごくデリケートなテーマだったし、あの主人公と同じような悩みや経験を私も持っていて。それを現代で歌うにはまだ私が幼すぎたんだと思います(笑)。

——小説のお話に戻ります。最後にタイラがどんなに罵声を浴びせられても強く生きていくという形で終わったじゃないですか。すごく続編が気になるところなんですが・・・・・・。

そうですね。続編になるのかな? どうなるんですかね。でも、書くことは続くと思うんですけどね。

——結局、何で鹿が喋るのかも解決せずに終わったじゃないですか。

そうですね。確かに番外編みたいなのを書いたら面白いかもしれない。

——期待してます。

はははは(笑)。妄想しつつ、機会があれば(笑)。

——11月下旬から翌年の1月にかけて、ワンマンライヴツアーが決定しています。このツアーで黒木さんが1番見せたいものは何ですか?

ワンマンライヴっていうのは私の中ですごく重要なんですね。ブッキングライヴのときと違って、ワンマンライヴには全体にストーリーがあって、その空間に入ったときにお客さんに、そのときまでの日常の自分を忘れてもらいたくて。それで、いつもの日常に帰っていくときに、「あぁ、何かいいものみた!」って感じてほしいんです。ただライヴ行って楽しかった、だけじゃなくて、何か浄化されたような気持ちで帰ってほしい。そのためにストーリーを作ってるというところもあるので、ワンマンライヴをたくさんの人に体験してほしいです。

——ファンやリスナーのみなさんにたくさんの生命力を与えてる黒木さんが、逆に自分自身が1番生きていると実感できるのはどのようなときですか?

ライヴ後のビールときゅうりですね(笑)。意外とチープなもので頑張るタイプなので(笑)。

Text:室井 健吾

PROFILE 
黒木渚(くろき なぎさ)

独特の文学的歌詞で、女性の強さや心理を生々しく歌い上げる、孤高のミュージシャン。宮崎県出身。全ての作詞作曲をつとめる。福岡で音楽活動を開始し、2012年12月に自身の名を掲げたバンド「黒木渚」として「あたしの心臓あげる」でデビュー。

2014年からソロ活動を開始。2015年10月にリリースした「虎視眈々と淡々と」「君が私をダメにする」などを収録した2ndフルアルバム「自由律」がオリコン初登場10位にランクイン。翌月には初の連作小説「壁の鹿」で文壇デビューも果たす。

2016年4月に最新シングル「ふざけんな世界、ふざけろよ」をリリース。7月には映画「全員、片想い」の主題歌「灯台」を配信リリースし、iTunesのトップソング総合4位にチャートイン。夏には「Reborn-Art Festival x ap bank fes 2016」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2016 in EZO」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016」など数々のフェスに出演した。

OFFICIAL WEB SITE
http://www.kurokinagisa.jp/

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これは、「M-Bug Vol.24」(2016年2月2日発行)に掲載されたインタビューに、未公開部分を加えたものです。


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